労働判例研究最高裁判例解説
トラック運転手の残業代の明確区分性《後編》
「熊本総合運輸事件」(最二小 令和5年3月10日判決)
固定残業代は経済合理的な行動として理解し得る範囲で許されるに過ぎない
本稿では、これまでの固定残業代制度をめぐる最高裁判決の理論を踏まえて、本誌第2134号(2023年5月21日付)の《前編》に引き続き、「熊本総合運輸事件」の最高裁判決(最二小 令和5年3月10日判決)の位置付けを考える。 本判決は、「雇用契約に基づく残業手当等の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものとして、1000万円を超える請求を棄却した原審(福岡高裁)の判断」を棄却して差し戻したもの。本判決では、「…よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。」との「法廷意見」に続いて、草野耕一裁判官の「補足意見」(判決の理由・論理の補足説明)が付されたことが注目される。 「補足意見」からは、最高裁が、固定残業代制度を必ずしも悪しき制度と見ているわけではないものの、他方で、それには限度があり、労働基準法37条の趣旨を踏まえつつ、固定残業代制度を導入しようとする使用者の経済合理的な行動として理解し得る範囲で許容される場合があるに過ぎないと考えていることが、明確に示されたといえる。 「補足意見」では、本件の固定残業代制度について、その導入経緯を含めてはっきり「脱法的事態」と指摘。その理由として、①これが許されてしまうと、使用者が基礎賃金に当たる賃金部分を大幅に切り下げて、その分を定額残業代に振り向け、追加の対価の支払なしに、それまでの平均的な時間外労働をはるかに超えるような時間外労働を行わせることが可能となってしまうこと、②実際に、そのように異常な長時間労働を行ったという事態が発生してからでなければ、賃金の支払方法としては有効であるという立場を許すのであれば労働基準法37条の趣旨の効率的な達成はできないこと――を掲げた。 最高裁判事が、事案をみて「脱法的事態」と一言で表現してしまうような、法的にも、常識的にも、おかしな賃金の支払方法について、下級審裁判所が、これにお墨付きを与えるような間違った判断をしないよう、労働基準法37条の趣旨を踏まえたしっかりとした解釈論を打ち立てていく必要性を痛感している。
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